首都高速 ― その狂気と楽しみ方
一.はじめに
和敬塾に住む皆さんのほとんどは、地方からの「おのぼりさん」だと思います。もちろん僕もその例に漏れず、上京したての頃は高層ビルの森を見上げて歩いていました。「東京という街に来て驚いたのは、複雑な…というよりもむちゃくちゃな構造の多いことだった」、というひとは多いのではないでしょうか?
さて、そのような複雑な構造を持つ東京ですが、その中でも特に「迷宮」、「ダンジョン」、あるいは「魔窟」というと皆さんは何を思い浮かべるでしょう?――新宿駅とか渋谷駅ですか?いい線いってますね(たしかにあれは初見殺しもいいとこです。渋谷駅で東横線(副都心線)から井の頭線まで迷うことなく乗り換えが出来れば、あなたはもう立派な東京人でしょう)。ですが、東京にはもう一つ「魔窟」が存在します、それも、とびっきりクレイジーなやつが。突然ですけど、下の図は何を表しているか分かるでしょうか?
何かの路線図のようですね。でも、鉄道ではないですよ。そう、お察しのとおり、これが首都高の全体図です。メトロの路線図に勝るとも劣らないですね。何がどうなっているのか分からないかもしれませんが、この魔窟にもちゃんと法則は存在します。それは、「環状線と放射線」です。つまり、クモの巣の縦糸と横糸のように道路が配置されているのです[1]。
そして、首都高において、環状線にあたるのが都心環状線(C1)と中央環状線(C2)、放射線にあたるのが、1〜11号線となるわけです。それらの分類に当てはまらないものとして、八重洲線(Y)や湾岸線(B)が存在します。湾岸線というと、猛スピードで走り屋が走っているというイメージを、アニメやゲームなどで持たれている方もいるかもしれませんね。それもそのはず。湾岸線は比較的カーブが少なく、車線数も多いのです。それでは、ここからはそういった各路線の特徴を見ていくことにしましょう。
二.どんな路線があるの?[2]
環状線
・都心環状線(C1)
首都高のもっとも内側に存在する路線です。いわば都心の中の都心を走る高速ということになります。ビルの谷間を抜けるためにカーブは急で、道幅も狭い、高低差はあるわ、とドライバー泣かせの道です。助手席で乗っているとそんな苦労はなく、なかなか見られない視点から楽しい東京観光ができるかもしれません。一周は15kmほどで、流れていれば20分そこそこで一周できると思います。天然サーキットと呼ばれていた頃には一周10分を切る猛者もいたとかいないとか[3]…。
・中央環状線(C2)
最近(今年三月)、大橋ジャンクション(以下JCT)と大井JCTとの間が開通したことで有名ですね。大井という臨海地区から、渋谷、新宿、池袋といった副都心の地下を通り、王子のあたりからは荒川の堤防沿いにひたすら高架が続き、臨海地区の葛西に至るというルートになっています。この路線単独では環状になっていませんが、大井と葛西は後述の湾岸線で接続されており周回することが可能です(一周70km程になるので結構つらそうですけど)。西側の部分には、日本最長のトンネルがあったり、グルグル回る螺旋状のジャンクションがあったりして面白いと思います。
放射線
・1号線(上野線、羽田線)
上野線と羽田線に分かれますが、上野線はメジャーではなく僕もあまり知りません…。羽田線は東京と横浜を結ぶ路線で、東京モノレールと並走している区間があります。バイパス的な役割を果たしている湾岸線に比べると、道が古いため少し走りにくいと感じるかもしれません。
・2号線(目黒線)
港区の一ノ橋JCTから分岐し、高級住宅街の白金あたりを通り、その少し先までいくらしい(あまり使わないのでよくわかりません)…。数回通った印象では、シロガネーゼなのか、「超」がつく高級車が多く走っている気がします。
・3号線(渋谷線)
東名高速と都心を結ぶ重要な路線です。交通量も多く、休日の夕方に都心方面の渋滞にかかると泣きを見ることがあります。六本木ヒルズや、ヒカリエ、渋谷駅と名所が沿線に多いです。
・4号線(新宿線)
先ほどの3号線が東名高速と接続していたのと同じように、この4号線は中央道に接続しています。この路線も中央道からの渋滞が延びていることがよくあります。カーブや高低差のオンパレードで事故もかなり多い路線です。中央線との並走は鉄ちゃんとしては興奮するポイントですね。
・5号線(池袋線)
和敬塾にもっとも近く、個人的には使用頻度が最も高い路線です。和敬から出て、有楽町線の護国寺駅に向かうときに高架をくぐると思いますが、それが5号線です。印象としては、首都高の中でC1に次いで凶悪なやつという感じです。一番多く乗っていますがいまだに怖いのが本音です。
・6号線(向島線)
高速道路につながるシリーズ第三弾です。この路線は三郷JCTで常磐道と接続しています。スカイツリーのよく見える路線です。渋滞は激しめ。
・7号線(小松川線)
例のシリーズ第四弾で、今度は京葉道に接続しています。首都高の中でも線形は緩やかで、始点である両国を抜ければあとは楽チンです。地図を見ると、荒川をまたぐあたりでC2と交差していますが、残念ながら立体交差するだけで連絡はしていません。初見殺しの一つですね。
・9号線(深川線)
C1と湾岸線とを結んでいる路線です。後述のレインボーブリッジに行きたいのであれば、ここは使いません。何度か間違えて走ったことがありますが、交通量は少なめで走りやすい道です。
・10号線(晴海線)
現時点では、最も存在意義がわからない路線です。湾岸線の東雲から分岐し、たった1kmちょっとしかありません。将来は延長されるみたいです。
・11号線(台場線)
かの有名な、「レインボーブリッジ」を擁することで有名です。ところで、みなさんはレインボーブリッジの由来をご存知でしょうか?別に夜間のライトアップは七色にはなっていませんよね。実は、この橋が結ぶ「お台場」と呼ばれる地区の正式名称は、「臨海副都心」で、東京の七番目の副都心なんです[4]。その「7」とのつながりから、公式愛称は「レインボータウン」になりました。「レインボーブリッジ」という名称もここから来たとのことです。
その他
・八重洲線(Y)
都心環状線のさらに内側にある路線。うまく使うとショートカットができるらしいですが、合流がおそろしくて使ったのは一回だけです(それも間違ってです)。東京駅から西へ向かう新幹線と併走することができるのはとても楽しいですね。
・湾岸線(B)
さきほども触れた、首都高で一番ドライバーにやさしい路線。カーブは少ないし、片側三車線あるので自分のペースで走りやすいです。また、お台場や、横浜ベイブリッジ・鶴見つばさ橋から見える横浜など、景色(特に夜景)がきれいで気持ちよく走れます。ただ、その気持ちよさや走りやすさは走り屋さんにとっても同じで、一番右の車線ともなると、深夜には150kmオーバー?とも思える速度でぶっ飛ばす車たちもいます。跳馬さんとか、強そうな牛さんもよく見かけます[5]。
三.首都高、ここが危ない!
ここまで、首都高について簡単に述べてきましたが、ここからは首都高の狂気について見ていくことにしましょう。
首都高に感じる危なさは主に、「合流(短い合流車線や右からの合流)」・「急カーブや勾配といった線形の悪さ」・「複雑なジャンクション」に理由があると思います。以下では、今まで僕が走ったなかで、そのような危険を感じる箇所をランキング形式で紹介していきます。
首都高危険な箇所ランキング(中村調べ)
第一位 護国寺ランプ[6](合流)
栄えある(?)第一位に輝いたのは、ご近所の護国寺ランプです。僕が一回あの世に行きそうになったとこですね。合流車線が短いのはもちろんのこと、ランプ手前で本線が右にカーブしながら下っているので、合流する車は見通しが悪いなかでスピードにのっている流れに合わせなければならないという点で難しさがあります。ちなみに僕が事故りそうになった時は、二車線に三台の車が横並びになっていました。お〜、こわ!
第二位 熊野町JCT(急カーブ)
池袋と板橋の間にあるこのジャンクションは、C2と5号線の接続地点ですが、上下線とも5号線がほぼ直角にカーブしています。このカーブに差し掛かる前は、上下線とも直線区間となっているので、かなり減速して注意深く走らないと、冗談抜きでコケそうになります。実際にここでコケてしまったのが、二〇〇八年に起きたタンクローリーの横転事故です。この事故では、積んでいたガソリンが燃え続け、橋桁が大きく変形してしまいました。2ヶ月に渡って通行止になるという首都高史上最大の事故です。
第三位 箱崎JCT(複雑なジャンクション)
まずは図を見てください。なにやら激しいことになっていますが、これが箱崎ジャンクションです。見た目のとおり機能も複雑で、3つの路線が交じり合い、その下の階にはパーキングエリアやランプが詰め込まれているという2層構造です。この複雑な形状のため案内看板も複雑で、運転しているとかなり気を使います。また、急な割り込みも多く、気をつけなければなりません。
番外編 南池袋PA(合流車線なし)
図を見てください。合流車線が短いところは多々ありますが、ここにはなんと「止まれ」の看板と停止線が…。本線は80kmとかで流れているのに、ですよ。まさに決死の加速が必要です。怖くて行ったことがないので番外編で紹介させてもらいました。
四.首都高の楽しみ方
さて、ここまでくると、首都高なんて絶対乗りたくない!なんて思われる方もいるかもしれません。僕も二年弱の首都高歴で、何度か怖い思いをしてきましたが、それにも勝る魅力があるのも事実です。そんな魅力と楽しみ方をここでは紹介していきたいと思います。
まず、何と言っても大都会・東京のど真ん中を、車で走り抜ける快感は他では味わえないものです。最初のころは運転に集中していてそれどころではないかもしれませんが、慣れてくると景色を見る余裕ができ、東京都心の狭さやそれぞれの地域の位置関係がわかったりします。
もう一つの魅力は、走り自体の楽しさです。一般道や他の高速道路にはないスパルタンな条件によって、いつもよりもう一段階上の運転体験ができるはずです。「車って意外と曲がるんだ」とか、「この車、こんなに加速良かったっけ?」などの気づきがあり、もっと車が好きになりますよ。
このような、魅力がある首都高を快適・安全に楽しむためには、次のようなことに気をつければいいかなと思います。
・速度は出しすぎない!とくにカーブの手前では。
・車間距離は多めに。割り込みされても苛立たない寛容さを!
・できれば、事前にルートの確認をしましょう。ジャンクションで焦らないためには、事前の準備がものを言います。
・煽られても気にせず、譲る。怪しい車には関わらないのが一番。
いろいろ書きましたけど、普段の運転でも気をつけることと同じですね。そう、首都高だって普通に走ればなんてことはないんです、たぶん笑。
五.おわりに
さて、今回の首都高のお話はどうだったでしょう?ちょっと長くなりましたけど、少しでも首都高のことが伝われば、と思います。楽しいドライブコースも幾つか知っているので、興味を持った方は僕に一声かけてください。ドライブ行きましょう。それでは、乾寮ドライ部の成長を願いつつ筆をおくことにします。
図ⅰ http://www.ryoko.info/rosen/kosoku/data/syutoken.htmlより
図ⅱ Google Mapより
図ⅲ、ⅳ http://futabanolog.net/thread/341315より
図ⅴ https://www.youtube.com/watch?v=5EJhCbGx8RAより
[1]都市工学的には、都心に通過交通を入れないという点で優れたシステムです。例えば、クモの巣の上から来て右から出たい人は、外側の環状線を使うので、内側(都心部)へ入る人が減り、渋滞の緩和につながるという効果が期待できます。
[2] 首都高には、東京線・神奈川線・埼玉線がありますが、今回は東京線にだけ注目しています。他はまた別の機会に…。
[3] 今では取り締まりが厳しくなっていて、C1をサーキットにする「ルーレット族」はほとんど見かけません。
[4] ほかの副都心は、新宿、池袋、渋谷、上野・浅草、錦糸町・亀戸、大崎です。皆さん知ってましたか?
[5] 「跳馬さん」とは、フェラーリ、「強そうな牛さん」はランボルギーニのことです。エンブレムからそう揶揄されたりしてます。
[6] 「ランプ」とは高速の出入り口のことです。インターチェンジの簡素版といったところでしょうか。
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#第2巻