花火
男が早稻田の、丁度夏目坂通りを登つた處に在る下宿に住んでゐた。北向きの六畳一閒には、茶色い本棚が數多有つた――否寧ろ本棚しか無く、最早本棚が壁と爲つてゐたのである。男は日常凡そ如意の時は必ず書物に向かつて飽きる事が無かつた。實家からの學資も奬學金も、竝べて書物に尤も充てられ...
この夏の思い出
僕はこの夏、サークルでの登山を中心に多くの自然体験をした。全体として天候に恵まれなかったが、どれも有意義なものだった。夏の体験を皆さんに紹介し、面白がってもらえたら何よりだ。この文を通じて山や自然に興味を持ってくれたら嬉しい。 七 月 ○富士山について...
「自分探しの旅・改」
塾講師の仕事柄、中学生に国語(現代文の説明文)を教えている時、ふとある文章に出会った。 内容は「自分探しの旅」というものであった。うろ覚えであるが、内容は次のようなものだった。 「自分がどういった人間かを知るために、誰も知り合いのいない、全く新しい土地に行くという考え方もあ...
「To Face Something New --My Study in a Strange Environment--」(たぶん評論)
留学って何さ? 全くつまらない僕の留学体験に書面を割くのを、どうかお許しいただきたい。 2014年の秋、僕は独りアメリカに旅立った。中学生以来の海外である。そもそも海外など一人で行ったことがないどころか、飛行機すら一人で乗るのは初めてという有様で、空港では緊張と不安のあまり...
「コペンハーゲン漂流記 その1 「デンマークってどんなとこ?」
みなさん、僕のことを覚えているでしょうか。みなさんに送り出してもらっての出発からはや一ヶ月。なんとか生きています。そろそろ体育祭やらなんやらで僕のことを忘れ始めていると思いますが、そんなことは気にせず留学先での暮らしや考えたことについて書いてみたいと思います。...
食堂
食堂の戸は横滑りである。勢い好く開けた處で、男臭がプンとする訳でも無い。食堂は略長方形の渺茫(びようぼう)たる大部屋で、戸は丁度右長辺の半ばに位置してゐる。余は、長方形の長辺の残りを大股で歩いてゐる。やけに運足が自由である。パンツが無いのだから仕方あるまい。只、服は着てゐる...
東京幻想論
東京の一番の特徴といえば、日本の情報や人が一極集中していることであろう。欧米では計画都市が主流である。アメリカでは特に顕著であろう。経済はニューヨーク、政治はワシントン、学問はボストン、といった具合に役割や街のシンボルとなる建物を分けるのである。日本では政治経済、文化芸術、...
「目白通り」
普段身に着けている腕時計には様々な機能が備っている。曜日を示す機能、国際時計、ストップウォッチなど。バックライト機能を使えば、少しばかりではあるが手元を明るくすることさえできる。私にしてみれば、これで十分に「スマートウォッチ」である。私はこのスマートウォッチをストップウォッ...
首都高速 ― その狂気と楽しみ方
一.はじめに 和敬塾に住む皆さんのほとんどは、地方からの「おのぼりさん」だと思います。もちろん僕もその例に漏れず、上京したての頃は高層ビルの森を見上げて歩いていました。「東京という街に来て驚いたのは、複雑な…というよりもむちゃくちゃな構造の多いことだった」、というひとは多い...
佐々木徹氏「いろは歌」に関する私見
いろは歌 佐々木 徹(四期生) まろをつれ にしとはんたいの みやこへゆく きせるひそめ むちよけてふす なお ほねもかえらぬうわさあり 何らかの貴人に付き添う人物の作とみられる此の作であるが、表層的な語意に関しては恐らく此処に贅するには及ばないと思われる。洋の東西を問わぬ...